善行宅訪問記 in Dream(笑) 善行宅訪問記 in Dream(笑)
「高機動幻想ガンパレード・マーチ」(アルファ・システム)より 
2001-09-15 公開

 私服に着替えて外に出ると、善行は読んでいた本から顔を上げた。
 「じゃあ、行きましょうか」
 クラスでガンパレード・マーチの劇をやる事が決まり、シナリオ担当になったこちらと監督に決まった彼とで、今日は内容を詰めようと言う事になった。曰く、
 「私の家で打ち合わせしましょう。色々と資料があった方が良いし」
 …流石に出演している御仁は言う事が違う。
 確かにあのゲームを1時間程度の劇に収めるのは大変なので、色々と判断材料があった方が良いのは確かだ。大体、誰を主役に据えるかでも随分と流れが変わる。分量の切り方を考えるだけで頭が痛いのだが、一人だけで考えなくても良いのがまだ救いだ。


 学校の裏の田圃を抜け、畑を抜けて、鬱蒼たる森の中を行く。次第に気分が高揚してきた。他人の家に行くというのは、それだけでわくわくする。これは私の子供の頃からの困った性癖だ。
 森を抜けたところに長い土塀があって、その土塀の切れ目が終着点だった。
 「こちらからどうぞ。」
 こちらを振り返り、一言そういって善行は、無造作に土塀の引き戸を開いた。

 …でかい家だ。

 庭も広ければ、家も大きい。しかも家は一つではない。まるで法隆寺の夢殿みたいな面白い形の建物もある。あれは別館だろうか?どの建物の部屋に案内されても楽しそうである。大きさに気圧される様な事はないが、好奇心で胸が炸裂していた。
 彼が私を連れて行ったのは、一番目を引いた八角堂の建物だった。側で見ると古い建物らしく、壁面がかなり枯れた色になっている。窓ガラスに年代物のステンドグラスがはまっていて、非常に風情があった。きっと建った当時はかなりモダンな建物だったに違いない。
 こちらを見て善行が薄く笑った。
 「…楽しそうですね」
 笑い含みの声。
 「そりゃあもう!私こういうの凄く好きなんですよ!わくわくします」
 「そうでしょうね。目が輝いてますよ」
 「えへへへへ☆」
 中に入る。思ったより広く、白塗りの天井が高い。どのような曰くか判らないが、テーブルと椅子やソファが幾つも置いてあって、まるで一寸した喫茶か食堂の様だ。古めかしいが小綺麗で、よく手入れが行き届いてる事を伺わせる。善行はその中の壁際の、ソファ付きテーブルに案内した。
 「此処で座って待っていて下さい。着替えてきます」
 彼が出ていったのを見送って、辺りをしげしげと眺めていたら、先客と目があった。品の良い、でも少し垢抜けた感じのする老婆だ。眼鏡に三つ編みといった余りにステロだけど建物に似合い過ぎなメイド娘に給仕をさせて、もう一人の老婆と共にお茶を飲んでいる。もう一人の方は垢抜けてる方より若い感じだが、こちらはもう少し疲れて野暮ったい。此処は客の相手でもする場所なのかしらん?位に思っていたら、目のあった方がこちらに寄ってきた。
 「忠孝さんのお友達?」
 穏やかで品の良い声。言葉の中身できっとお祖母さんか何かだろう、というのは想像がついた。でも、友達、という程のつき合いじゃないので返事に困って、
 「え、あ、は…というか、今日は一寸学校の用事を一緒にやろうと言う事で寄せて頂いたんですけど…」
 とか何とか、しどろもどろに応える他なかった。大体良いとこの親御さんてのは、そう言いながら色んな意味での先走った値踏みをしているから、返事が難しくて困る。
 「そう」
 答えながら向かいに座る。ついでに一緒にいた人も呼び寄せて、並んで座られてしまった。一寸落ち着かない。
 「この建物が気に入った?」
 「ええ、はい」
 「そう。これはね、私が立てさせたものなの。一寸良い感じでしょ」
 「お祖母さん、そこまでにして下さいよ」
 どう答えたものかと思っていたら、善行の声が割り込んだ。見ると、両手に沢山の資料を抱えている。
 「板野さんが困っているでしょう?私たちはこれからする事があるんです。どいて下さい」
 「いいじゃないの。この方も此処がお気に入りのようだし、少しぐらいお話ししても」
 「よくありません。こっちには時間がないんです」
 「じゃあなんで此処へ連れていらしたの?学校のお勉強なら他のお部屋ででも出来るでしょう?」
 「…」
 そのまま一寸お説教モードに近い形の愚痴を長々と聞く羽目になった。だが話の中身は結構面白かったので、黙って聞いていたら、隣から規則正しい寝息が聞こえてきてギョッとした。焦って隣を見ると、座ったまま善行が寝ている。
 「え…あ?!」
 吃驚して老婆の方を見ると、彼女は笑って口元に人差し指をあてた。
 「最近忙しかったらしくて、寝てないのよ」
 「あ、そうなんですか」
 試験勉強か?…な訳ないか。まあ金持ちには凡人に計り知れない何かがあるのだろうと簡単に考えて納得する。しかし、これでは打ち合わせが出来ない。一寸悩んだが、内部資料が手に入ったので、それを参考に一気にそこで書き上げる事にした。原稿用紙を広げて苦吟しながら書いている様を、ずっとその老婆達は見ていた。


 結局そのまま彼が起きてくれなかったんで、適当に書き上がった処で帰宅して、確認の為にゲームをしてみる。そこで、今迄見た事もないモードに入り込んだ。
 場所は何処かの学校。そこの夜の出来事らしい。一寸荒れた生徒達が暴れている。そこへ颯爽と善行が飛び込んで来た。勿論彼は暴れている生徒を止めに来たのだが、その髪型が凄くて、絶句。おかっぱとドレッドの中間みたいな頭なんである。それで「君たち、止めなさい!」とか言っているのが、全くそぐわない。そのまま画面を眺めて石になってたら、とんでもないシーンが発生した。

 その髪をそっくりはぎ取られたのである。

 いきなり全部五分狩りみたいな頭になって、皆に笑いモノにされながら逃げ去る彼と、「これによって彼は前の学校から異動してきたのであった…」というテロップを、私は真っ白になって見つめていた。


 翌朝、見てしまった過去を書くべきか否か迷って、途中まで書いては消しを繰り返していたのだが、余りにこちらも衝撃が大きく「あの人はこういう事を知られるのは嫌だろうな」と判断する事にして、そっくり削る。書き直したところで、善行が迎えに来た。
 「昨日はすみませんでした。リターンマッチという事で、今日は朝からやりましょう」
 すまなそうに言うのだが、こっちは昨夜のゲームの名残があるので、何となく真っ当に顔が見られない。つい頭を見てしまうし、真面目な顔をされてる程に噴いてしまいそうだ。
 「どうしました?」
 …言えるかそんなん。
 とりあえず昨日と同じルートを辿って、彼の家に行く。今度は件の八角堂ではなく、普通の家の彼の部屋に通された。ベッドが部屋を占拠している。大きな本棚とモノクロの大判の風景写真が何枚か貼ってある以外は、地味な部屋だ。でも、特に何かが散らかっているという訳ではなく、男の部屋にしては綺麗な方である。
 と、外に声を掛けた筈の善行が、誰かに怒っているのが聞こえた。
 入り口に顔を向けると、姿がない。どうも外で声を荒げている様なので、こっそり扉から覗いてみる。すると、昨日見かけたメイド姿の女の子に、お茶の出来について、文句を付けていた。
 女の子はまるで田辺のように身を屈めて謝っている。彼女が可哀想になり、思わずそこへ歩み寄ってしまった。
 「そんなに怒る中身じゃないでしょうが。見ましたよ、ウチへ転校してきた理由」

 効果は覿面だった。

 「えっ!?」
 全身でたじろいで、赤面したまま激しく後ずさり。壁にぶつかった時、ドォン!とかなり派手な音がした。背後の壁にブチ当たらなければ、もっと離れてたかもしれない。
 「み、見たんですか?!」
 声がでかい。しかも裏返っている。普段の冷静さの欠片もなかった。
 「ええ」
 頷きながら、メイド娘からお盆を受け取って、目で行って良いと合図。
 メイド娘が何度も遠くから頭を下げる。
 「ま、まさか、書く気じゃないですよね?!」
 「さてね」
 「さてねじゃないでしょう!」
 無視してお盆を持ったまま部屋に戻る。
 「それであんな顔して人の頭ばかり見てたんですね?そうでしょう!おかしいと思ったんだ!」
 必死の形相で追い掛けてくる。あの冷静な筈の人がこんなになるってのは、この世界ではまだまだ若いって事だろうか。それにしても、自分の過去がああいう形で公開されてるのは…
 「大体昨日だって結局書けなかったじゃないですか。そんな余談、今日は絶対書かせませんよ!」
 「書きませんよ」
 「あの話はコメディじゃな…え?」
 善行は肩すかしを食らったような顔でこっちを見た。
 「書く訳無いでしょう?只でさえ情報が多くて難儀してるってのに、そんな処に割く時間はありませんてば」
 「そ…うですか?」
 疑いの眼差しを向けてくる彼に、溜息一つ。鞄から封筒を取り出す。
 「昨日寝てたクセに何を言う。貴方彼女達から何も聞いてないんですか?」
 「え?」
 「昨日の内に第一稿は上がってるんですよ。その上で書き加えるなんて面倒くさい事、する訳無いでしょうが」
 ホントはやろうと思ったけど、今見せてくれた反応が殊の外面白いものだったので、無かった事にする。
 「そっちが貸してくれた資料のお陰で上手くまとめられましたよ。ほら」
 封筒を渡す。彼は、慌てて袋から原稿を抜き取り、半信半疑の顔で黙読を始めた。目の動きが早い。ざっと読み通すと、肩の力が抜けて、がっくりとベッドに座り込む。
 「…おっしゃる通りでした」
 全身でホッとしたような表情。
 「助かりました…アレ書かれると、外を出歩けなくなってしまいます」
 「ゲームで公開されてるのは良いの?」
 激しく動揺した顔を上げてこちらを見る。
 「!…い、いやその…あれは裏モードで…その…」
 何か言いたそうにして口を動かすが、結局言葉を見つけられ無い様で、下を向いてしょげてしまった。見るも無惨で、気の毒である。
 「…あの、さ…」
 「…」
 返事がない。かなりなダメージを受けている様だ。
 これではどっちの頭が恥ずかしいのか、なんてとても聞き出すことは出来ない、と思った。


…といった処で目が覚めた事を記しておく。
世間じゃビル倒壊の大惨事の真っ直中ってのに。日本は平和だね(爆)


−了−

[関連コメント]


だから、こういう夢を見たんですってば(笑)
GPMに限らずこういうの見る時の俺脳は無敵。
夢故に各種不条理に関するツッコミは却下。
ちなみにこの当時、他にこんなの見てます→
修学旅行は形にしたかったんですがオチがね(笑)
BY. S_Ita./2003-12-14_add.
気が付いたヒトだけのおまけ。こんなのも見てます(爆笑)→


感想はメールか掲示板、または以下を御利用の程。

 

 

…ヘボなりに御礼が出ます(笑)

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