其の弍:愛憎の果て[Bパート(笑)]
「ニ番機破損!後退します!」
「一番、四番に援護!三番機は右舷に展開…っ」
「司令!」
善行の顔色は、真っ青を通り越して土気色だった。
額から脂汗を流し、その左手は傷の辺りを押さえているが、それでも必死に戦況画面を見据えて居る。
「…っ…ハァ…ハァ…ハァ…く…」
息が、荒いというより、全身で喘いでいる、といった方が良いだろう。幾ら痛み止めが効いているとは言え、応急処置を施した腹部は既に血でひたひたに染まり、止血が余り意味を為していない事が判る。
「司令…此処はやはり私に委譲されて」
遠坂が気遣わしげな声で囁きかけるのに、善行は汗を拭いながら、軽く笑って応える。
「大丈夫、自分の身体は自分が一番判っていますから。それよりも貴方は貴方の仕事をしなさい」
「二番機回収完了!三番機より援護要請!」
善行は指示を出そうとして、激しくむせた。
「…っ!」
「司令!」
「忠孝様!」
「グフ、ゲフガハ…っ」
大きく一つ喘いで、善行は血の固まりを床に吐き捨てた。
「…っ…ふ、ぅ…」
その口元を血の色に染めて、不敵に笑う。
「失、礼。一番機を、三番機の、援護に」
その鬼気迫る雰囲気にオペレータが息を呑む。
「復唱っ!」
弱ってる怪我人のモノとも思えない、鋭い声が飛ぶ。
「はっ、はい!一番機に三番機の援護を指示します!」
「…っ…よし…!」
遠坂は戦慄していた。
(このヒトは…!)
見れば、その血が既にそのバミューダを伝い、足を伝って周囲に染みを作っていた。
一体どれだけ失血しているのか。このままでは戦死以前に失血死しかねない。
早く戦闘を終わらせるか、この人を後退させなければならない。
それはきっと、この小隊の人間の誰もが思っている事。
「司令…止血を!」
「そうは、いきません。まだ、戦闘は、終わって、いない」
その状況とは裏腹に、目の光だけは、苛烈さを増している。
「私の身体なんて、どうでも良いんですよ」