10.永遠の記憶
翌朝早く、善行は一人、駅で始発を待っていた。 一番の思い出は、昨夜貰っていた。
だから、もう、この土地に思い残すことはない。
どこからか、聞いた事のある歌が流れてくる。 ホームに始発が滑り込んでくる。
何よりも、自分が、彼女の思い出に励まされる事だろう。 善行は、力強い足取りで、電車に乗り込んだ。 舞は、尚絅高校の、校門を抜けた処だった。日曜だが、朝からする事は沢山ある。デートが無くなったからといって、暇じゃないのがこの小隊の現実だった。 「お早う。どうしたの、そのマスク」 早速、目敏く速水が寄ってくる。 あの後、言われたとおりすぐ萌を探して、手当してもらったのだが、 「ひど…いわ…」
とか呟かれて、傷よりかなり大きい絆創膏を、大げさに貼られてしまったのだ。おかげで今、口が動かせない。一晩で他の怪我が大分マシになったので、顔の絆創膏を剥がすついでに口のも剥がそうかとも思ったのだが、今日一日は剥がしたら呪う、とか言われてしまっては、やりにくい。呪いなど信用していないが、萌との信義は守ろうと思ったので、今日一日くらいは神妙にしてようと思ったのだ。だが、仕事の懈怠は許されない環境でもある。仕方ないので、日曜なのをこれ幸いとマスクで登校したのだ。 慰めて、くれたのか?
そんな事に、思い至った時、舞の耳に、歌が聞こえた。 歌詞が、今の気分に、一寸合った。
小さくハミングしてみる。 『…寂しい 夜の すぐ側にいるよ…』
舞は昂然と、頭を上げた。
《Continuous End》
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