3.
頂上に、辿りついた。 素子は、レジャーシートを広げると、荷物を開いた。 中から5段がさねの特大お重が出る。
軽く苦笑して、素子は呟く。 「…結局そんな散文的な思い出は、なんにもしてあげられなかった」 す、と星が流れる。 「…ごめんね」 呟く様に。 「…それで、良かった?」 確かめる様に。 「私を選んで、本当に良かった?」 本当は、二人で見る筈だった、夜空。
再び、星が流れる。
あの男の力なら、絶対叶えられるだろう。 「逢いたい、と望むのは、贅沢…?」 やっと手に入れた安寧と充足を失った。それが手を伸ばせば、取り戻せる処にある。そう思うとやはり、迷いはおさまらない。だがきっと、彼はそういう事を望まないだろう、というのは、哀しい位に確信があった。 …本当に?
いや。
それは、気づけなかった事と、意図的に目を逸らした事実から起きた事への罪。
素子は多目的結晶を取り出した。 でも、此処で逃げたら、自分と彼の決断に、嘘を付く事になる。
素子は意を決した。 (…の幸せを願ったけれど…) 馴染んだ思考の流れが緩やかに素子を包む。 (…自分は最後の最後に、あの人を不幸にしたな…どうか、泣かないで居てくれると…良いのだが…) 無骨だけど優しい、意思。 (すみません…素子さん…だけど、俺は…そんな貴女に泣いて貰えるのが…嬉しいなどと不謹慎な事を考えている…) 何処までも優しい、感情の記憶。 (そして、やっぱり、もう少し、貴女の為に、生きていたかった…) 心が、震えた。 そして初めてぽろり、と涙がこぼれた。
こんなにも、優しい生きものに、愛されていたのだ。 降る様な星空に、ただ、星が流れる。 「貴方が好き。誰よりも大事。でも、貴方はもういない」 涙が、止まらない。
「康光…」 |