2.決められた構図(承前)
善行は帰宅した官舎内で、前日の出来事を思い出していた。
『司令で無くなった様だな。それで貴様の仕事が勤まるか?』
電話口の『彼』は、相変わらず横柄だった。
「速水が望んで司令になったのですから問題ないでしょう。私は彼のサポートをするだけです」
『…フン。相変わらずだな。ところでこの前のアレはどうだ?』
善行は薄く笑う。一時的に体力を急速消耗する為の手筈を手配して貰っていた。
今の身体ででも充分だが、完全に他者の目を誤魔化しきる為に、念を入れたのだ。
それにより、格闘訓練でののみに倒され、気絶する迄に至った。
「良く効く呪(まじな)いですが、命がけですね。特に、今の私の身体では」
『仕方あるまい。『竜』を出し抜く為だ、多少の犠牲はやむを得ないだろう』
「かろうじて、という処ですか。ウサギと依代にはあからさまだったようですが、彼はこちらについての余分な知識で勝手に勘違いしてくれましたよ。」
電話の向こうで笑い声が聞こえる。
『それは貴様の芝居が下手という事だろう?…善行。そこまでして、残りたい意味は何だ』
善行は苦笑いした。
「…それが判れば、こんな苦労はしませんよ」
『そこがタダビトの限界だな。ところで、そちらの事態はどうなっている』
「参謀本部が大騒ぎですね」
『やはりな。そろそろ『城』が動く。希望の方も見逃すな』
「…了解」
その電話を参謀本部内で受けた後、本部内の情報を一通り探った処で舞に出会った。
余りに綺麗な符合。
「速水と自分の為の、『城』か…」
舞は、熊本城を拠点とした、大規模な攻防戦を起こそうとしている。
この戦いで一気に雌雄と大勢を決しようという腹なのだろう。
それを速水は知っているのか。恣意的に彼女を操って、示唆しているのか。それとも、知らずにいるのか。
(本分だけは弁えてくれれば良いよ)
あの綺麗な顔からは、何も伺い知れなかった。
『城』は、定められた、構図。事態が、大きく動く。
果たしてそのターニングを見たいが為に、自分は此処に居たのか。
答えは、見つからなかった。
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