2.決められた構図(承前)
「あ痛たた…十翼長、もう少し優しく運んでくれませんか?」
善行は若宮に、整備員控え室に担ぎ込まれていた。
「よりによって、何で東原相手でノックアウトされるんですか!たまたま急所に入ったとはいえ、余りに酷すぎます!避ける位はして下さい!軍人は身体が基本だと、以前も教えたでしょう?」 若宮はひとくさり文句を言うと、萌に頼むと言い置いて、授業に戻っていった。 「…」
萌は何も言わず、救急箱を開く。
「…すみません」 萌は何も言わない。ただ黙々と、ほの青く光る手を這わせて、ののみの打ったあたりを探っている。
「…」 しばらく間が空いた。
やがて、探っていた手を止めて、萌が顔を上げた。 「…嘘…吐き」 「…」 萌はすー…っと手の位置を左斜め上に動かして、突然、ぐ、と押した。 「…っ!」 鈍いが、重い痛みに息が詰まって、思わず呻く。 「…貴、方の…古、傷は…此処…」 萌は善行を、まじまじと見た。
「…東、原、さん…の、打っ…た…位置、と違、う…」 善行は、しばらく萌を見ていたが、やがて、溜息をついて、苦笑した。 「…やれやれ…貴女には敵いませんね…」
軽く、頭を振る。 萌は、善行をしばらく見つめていたが、徐に口を開いた。 「…速水、君…?」 善行は萌を見た。 微妙な間が空く。 「…だけじゃないですけどね」
萌は黙って湿布を貼り付けた。 |