2.決められた構図
善行はとりあえず素直に処分に従った。大体小隊に行ってみた処で、職の陳情をし損ねた為、未だ無職のままなのだ。そうなれば異動陳情以外する事も特にないし、陳情自体は謹慎の身の上で出来る筈もない。官舎で飼い猫の相手をし、ついでに身体がなまらない様に筋トレをして過ごした。 「やれやれ。こいつは同情を禁じ得ませんね…」 積極的に激戦区に転戦していき、少なくとも小隊内に死者を出すことなく、状況を改善する能力は流石だが、日替わりパイロットとスカウトをその日の内に把握し使っていくのは並ならぬ胆力が要求される。かつての司令としては、心労如何ばかりかといった処だ。 「…まあ、速水君は気にしないかも知れませんが」 結果を見ながら、善行は薄く笑った。速水の興味はただ、舞のみ。それ以外は皆同じ。それは、ヒトの上に立つ資質としては、悪くない。かつて、彼は誰にでも優しかった。誰にでも優しいと言う事は、誰にも優しくないのと同義であると、彼は知っていたのかどうか。 (僕は優しくなんかないんだよ) かつて、覚醒前に聞いた台詞を思い起こし、きっと知っていたに違いない、と思う。言葉としてではなく、実感として。
謹慎開けの早朝、善行は速水に呼び出され、異動を言い渡された。
(随伴歩兵か…) 「とりあえず、ライン復帰おめでとうって処かしら?」
善行は顔を上げた。
「ありがとう。早いですね」 善行は軽く笑った。
「な、何よ」 素子の頬が少し染まる。
「…気味が悪いわ」 素子は表情を改めた。
「大陸帰りの貴方にスカウトなんて、誰が考えたのかしら。殺すためにしては事情を知らな過ぎるわね」 素子は溜息をついた。
「−前言撤回。やっぱり貴方は変わってないわ。嫌な奴」
装備をスカウトのそれに固めてから、自分用に武尊を陳情して、一組に向かう。
「善行。先日は、すまぬ」
善行は微笑した。
「そうですか。それではいつか、そうさせて貰いましょう」 一緒に階段を昇る。
「…善行」 舞の目が見開かれる。
「嫌いですか?」 先程までの態度と打って変わった、思いっきり思考が止まってしまった様な問い。
「ええ、二匹」 素っ頓狂な声に、思わず問い加減に視線を向けた。
「…苦手、ですか?」
しどろもどろになってしまった舞を見て、善行はピンと来た。
「触りに来ますか?」 すーっと上気してしまった舞を見て、確信する。
「冗談ですよ。そうですか…芝村さんは猫好きなんですね」 「お早う。何話してるの?」 速水がさり気なく、二人の間に入った。
「お早うございます。芝村さんがお気に召した様なので、ウチの猫の話を」 速水はにっこり笑った。
「良いじゃない。知られて困るような事じゃないもの」 速水のやや剣呑な雰囲気に、舞が怪訝そうな顔をした時だった。 「ほら、そこ。階段で立ち話をするな。もうすぐ時間だぞ」
本田が階段を昇ってくる。 |