「ああ…っ」
女はそのセミロングの黒髪を、振り乱して、悶えた。
黒革が、鮮やかに映える、白い肌。
ボンデージからはみ出すように突き出された、形の良い小ぶりの乳房が、腰の動きの激しさに合わせて大きくうねり、その先端は硬くそそり立つ。
「あ…っは…あああ…んんん…っ」
乳首の先を男の胸板に押し当てるようにして、その口を貪り吸う。
その間も振られた腰は止まる事がない。
「んあ…ハ、ハ、ハ…ッ、ア」
離された口から、すう、と一筋、涎が糸を引く。
「ああ」
彼女の身体が大きく震え、ビクビク、と痙攣した。
「う…あ」
女は繋がったまま、男の上に倒れ込む。
今夜何度めかの絶頂が二人を包み、白い液体がその結合部から幾重にも溢れ、付近を覆う革と内股を、再度濡らしていった−
1.Philtrum −その毒−
それは、完全なミスだった。
使い物にならなくなった士魂号から降車して、幻獣相手に奮戦数時間、相当奥に入り込んでしまっていたらしい。完全に小隊から分断された場所に、只一人、取り残された。
「…のっ!」
それでも持ち得る全ての武器と技能で、幻獣をねじ伏せたのだが、最後の一体に手こずったのが、仇になった。
「!」
敵の断末魔の一撃が、軽くその首を掠める。
辛うじてかわしたが、皮一枚切ってしまった。
久遠の無骨な手で、痛む部分に触れてみる。
「…ツ…」
顔をしかめながら、それでも大した傷ではない、と安堵したのが一時間ほどの前の事だろうか。
「ウ!アアアアアッ!…ア…ッ」
舞は、廃屋内の影で一人、のたうち回りながら呻いていた。
隊からの呼び掛けは多目的結晶を通じて、先程から激しく響いている。
だが、それに答える事も出来ない程、意志は飽和していた。
「ああ…っ!あっ…ハッ…ハッ…」
激しい動悸と興奮。
頭の芯と胸の奥とが、痺れる様に熱い。
そして、何より。
「うああ…っ…はぁぁ…っ!」
その下腹から突き上げてくる、今迄に経験した事も無い様な、熱い、飢餓感。
立ち上がる事はおろか、足を動かす事もままならない程に、激しい欠乏感が責め付けて、何も、考えられない。
「ハア…ハア…アアッ!」
努めて正気を保とうとすればする程、頭の中の熱の塊が、その思考を押し潰していく。
最早、口も閉じる事すら、出来ない。
悔しさや惨めさといった矜持も既に溶け去って、ただ、全身を覆う激しい迄の淫欲のみが、次第に自らを崩壊させつつあった。
ただ、最後のささやかな自我だけが、今の彼女の砦に過ぎなかった。
戦闘後に行方不明になった舞を探して、善行は、最後に彼女の信号を視認した、廃屋の集合地帯を歩いていた。勿論此処は集合住宅の跡地なので、小隊全員で、集落毎に2人1組で手分けして捜索中である。
「じゃあ戦士、貴方は隣の階段を頼みます。私は此処を」
「了解」
若宮と別れて、善行は自分の担当の階段を昇り始めた。
コンコンコン…と軽やかに昇った、その3階辺りで何かが這いずる様な音を、聞いた。
「!」
銃のストッパーを外して、若宮に連絡。
自分は物陰に隠れて、戦闘態勢を取った。
程なく若宮がやってくる。
「幻獣か芝村さんかは判りませんが、念の為、突入します。貴方は左を」
「了解」
「3,2,1、GO!」
低い体勢で、転がるようにして入り込む。
だが、何も、ない。
その先の部屋には扉が無く、廊下は二手に分かれていた。
「…分かれましょう。貴方はそちらの部屋を頼みます」
善行はそのまま、自分の向いている側の部屋に入っていった。
特にトラップや、幻獣が居る様な雰囲気でもない。
(気のせいか…?)
それでも緊張を解く事無く、細心の注意を払って、奥に入り込んでいく。
その時だった。
「…ウ…」
壁の向こうから、小さな、女の声が聞こえた。
「…芝村さん?」
善行は小さく訊ねた。
「…う…あ…っ」
流石に数ヶ月も行動を共にしていれば、声を間違う筈もない。
善行は身体を起こして、確認のために、壁の向こうを覗いた。
「!」
そこには全裸の舞が、身体を丸める様にして、横たわっていた。
時折、びく、びく、と身体が、しなる。
久遠とインナーは全て脱ぎ捨てられ、乱雑に床を埋めていた。
「…ふっ…ふっ…ふ…」
ある種規則的な吐息と共に、激しく動いている右腕は、その両の足の間に埋もれ、湿った音をそこから奏でさせていた。
空いている左手は、その形の良い胸をまさぐる様に蠢いている。
その吐息は、欲の熱に染められた、官能的な音色を帯びていた。
とろりとした眼差しと、紅潮した顔までもが、淫猥なモノに彩られている。
「こ…れは!」
首筋に見える赤い傷痕が、その肌の白さに、一際浮き立っていた。
普段の彼女との余りの落差故、一瞬善行は、忘我した。
「司令殿、こちらには何も」
反対の部屋から若宮の声が聞こえて、我に返る。
「…!まずい!」
咄嗟に近くの、昔カーテンだったと思われる布地を、切り裂いて舞に被せた。
布が当たった瞬間、吐息が漏れ聞こえて、善行は大いに焦った。
隣の部屋から顔を出した若宮から、彼女を遮る様に立って、口を開く。
「発見しました。彼女は無事です。ですが、くれぐれも他言無用に。石津十翼長だけ、密かに連れてきて下さい」
「…了解」
こういう時若宮は、理由を聞かない。
何をすべきかだけを的確に考え、命令を遂行する、ある意味非常に有能な下士官なのだ。
彼が素早く出ていった後、善行は、左手の多目的リングを操作して、情報を取る。
(…催淫剤の様なものか?)
目の前の舞をスキャンして入ってきた情報は、新型の毒素情報を表示した。
善行には、その立場もあって、機密データベースに対して、他の兵士以上の閲覧権限が与えられている。それによれば、彼女を侵しているのは、最近一部の高等幻獣に見られる毒素で、多目的結晶の能力を無力化し、外部からの探知と内部からの発信を絶った上で、多目的結晶の持つ張り巡らされた人為的なニューロンを媒介に、各種中枢を刺激するモノとの事だった。
だから、未だにジャミングされたかの如く、目の前にいる舞の位置が、情報として入ってこない。
「ブレイン・ハレルヤとウィルスセルの合いの子みたいなものですか…なるほど、第五世代にも、頭の良い奴はいるらしい」
だが、この状態は、如何ともし難い。
まさかに、自慰に耽る少女を、他者の前に晒す訳にはいかなかったし、何より正気に返った彼女自身が、自分に見られた事を覚えているとしたら、その性格上、耐え難い屈辱になるだろう。
何より彼女には既に、決まった相手が居る。
「…ぁあああ」
「!」
吐息が一際高くなった。
この声を、聞かせる訳にはいかない。
善行は手近の布を切り取って、舞を抱き起こした。
身体に触れた瞬間、全身が激しくのけぞり、息を詰めたかと思うと、力無くくずおれた。
見ると、そのまま、気を失っている。
(どうやら、果てた…という感じですね)
善行は安堵して、それでも、用心の為に、布で猿ぐつわをした。
本当は在らぬ疑いを避けるためにも、インナーやウォードレスも着せたい処だが、流石にそれを男の自分がやる訳にはいかない。仕方がないので、改めて布を被せてやる。
だが、目に焼き付いてしまった、濡れた肢体の残像は如何ともし難く、萌が来る迄の間、気の毒だと思いつつも善行は己の劣欲を抑えるのに苦労したのだった。