Liar's Love.  −2nd Edition−
Liar's Love. −2nd Edition−
「高機動幻想ガンパレード・マーチ」(アルファ・システム)より
2002-06-16 公開

1.GAME OVER.

−4/2−


 「舞機 撃墜! パイロット降車します!」

 あと少し。あと少しだった。
 今一歩の処で力及ばず、撃墜された。
 実際は動作担当のタイミングミスだったが、複座型に乗っている以上、責任は双方のものになる。
 歩兵状態で残りの幻獣を殲滅できるとは思えなかったが、今回の作戦は撤退の許されない機密作戦である。明日のためにも奮戦する以外に方法は無かった。
 煙幕手榴弾を放って、とりあえず射程の長いレーザーを無効化し、幻獣を更に二体、狩る。
 僚友・ヨーコがサブマシンガンを放ちながら走る。
 その背に狙いを付けたきたかぜゾンビを、アサルトで葬る。

 その時だった。

 「…っ!」
 幻獣の放ったミサイルの破片が、舞の腹を貫いた。
 ウォードレスごと切り裂かれた傷口から、勢い良く鮮血が吹き出す。
 「が…っ」
 同時に血の固まりを吐き出す。その匂いにでも惹かれたかの様に、幻獣が舞の周りに寄ってくる。
 「ちっ…!」
 対Gドラッグとアドレナリンが効いている所為か、痛みは余り感じない。ただ、かなり喉が鳴る。身体が次第に重くなってくるのを、気合いだけで奮い立たせて無理矢理動かす。腹を押さえつつ、アサルトを放つ。三体霧消させた処で、弾が、切れた。
 アサルトを捨てて、カトラスを抜く。
 「キャアアア!」
 ヨーコが、ミノタウロスの攻撃に悲鳴を上げる。
 何とか避けたらしいが、サブマシンガンを取り落として、腕を押さえている。
 舞は、自分の腹を見た。
 どくどくと流れ出る血潮は腹をつたい、足をつたって地面に影のようなシミを作り出している。肉の裂け目から、骨と内臓が見えた。
 これではとても、保ちはすまい。

 「…行け…」
 「エ…?」
 「…此処は私が…何とか、する」
 「でモ…」
 「一人ならば、準竜師も、許してくれよう」
 口元の血を拭って、殊更に力強く笑ってみせる。
 「私は、大丈夫だ」
 ヨーコの顔が歪む。
 「舞さァ…ンっ!」
 渾身の力を込めて、カトラスを突き出す。ヨーコを殴ったミノタウロスを屠り、ヒュンと一振り。

 行け、との合図。

 ヨーコは一瞬辛そうな顔をしたが、撤退ラインに向かって走り出した。
 それを目の端で確認しつつ、口の中に溜まった血を吐き出して、再び幻獣に向き直る。
 カトラスを構え直した処で、視線がかくん、と下がった。
 気が付くと、膝をついていた。最早立てる力も残ってないらしい。
 「フン…まあいい」
 自然と口元に笑みが浮かんだ。此処からは自分一人の舞台。意識が途切れる迄に、せいぜい多くの屍山血河を築いてやるつもりだ。幻獣に心があるなら、激しく後悔させてやる。




 最後の幻獣が去った時、奇跡的に舞にはまだ息があった。血塗れの彼女は、仰向けに倒れたまま、折れたカトラスを握りしめて、見るともなく、白み始めた空を見ていた。
 (運命には…抗えぬのか…)
 ふと、脳裏に速水や若宮の事が浮かんだ。
 彼らも又、こうやって、戦場で命を散らしていった。
 今なら若宮の気持ちが判る気がした。
 (確かに…これでは…連れていって貰う方がしんどいな…)
 死にかけの今、そんな事を思う自分が可笑しかったが、最早笑う力もない。
 急速に意識が沈むのが判る。



 「貴女まで…私を置いて行くの?!」



 遠くから原の悲鳴が聞こえた気がした。
 一寸だけ、すまない、と思ったが、それも一瞬だった。



-Liar's_LOVE//2nd_Edition-1/8 
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