1.GAME OVER.
−4/2−
「舞機 撃墜! パイロット降車します!」
あと少し。あと少しだった。
今一歩の処で力及ばず、撃墜された。
実際は動作担当のタイミングミスだったが、複座型に乗っている以上、責任は双方のものになる。
歩兵状態で残りの幻獣を殲滅できるとは思えなかったが、今回の作戦は撤退の許されない機密作戦である。明日のためにも奮戦する以外に方法は無かった。
煙幕手榴弾を放って、とりあえず射程の長いレーザーを無効化し、幻獣を更に二体、狩る。
僚友・ヨーコがサブマシンガンを放ちながら走る。
その背に狙いを付けたきたかぜゾンビを、アサルトで葬る。
その時だった。
「…っ!」
幻獣の放ったミサイルの破片が、舞の腹を貫いた。
ウォードレスごと切り裂かれた傷口から、勢い良く鮮血が吹き出す。
「が…っ」
同時に血の固まりを吐き出す。その匂いにでも惹かれたかの様に、幻獣が舞の周りに寄ってくる。
「ちっ…!」
対Gドラッグとアドレナリンが効いている所為か、痛みは余り感じない。ただ、かなり喉が鳴る。身体が次第に重くなってくるのを、気合いだけで奮い立たせて無理矢理動かす。腹を押さえつつ、アサルトを放つ。三体霧消させた処で、弾が、切れた。
アサルトを捨てて、カトラスを抜く。
「キャアアア!」
ヨーコが、ミノタウロスの攻撃に悲鳴を上げる。
何とか避けたらしいが、サブマシンガンを取り落として、腕を押さえている。
舞は、自分の腹を見た。
どくどくと流れ出る血潮は腹をつたい、足をつたって地面に影のようなシミを作り出している。肉の裂け目から、骨と内臓が見えた。
これではとても、保ちはすまい。
「…行け…」
「エ…?」
「…此処は私が…何とか、する」
「でモ…」
「一人ならば、準竜師も、許してくれよう」
口元の血を拭って、殊更に力強く笑ってみせる。
「私は、大丈夫だ」
ヨーコの顔が歪む。
「舞さァ…ンっ!」
渾身の力を込めて、カトラスを突き出す。ヨーコを殴ったミノタウロスを屠り、ヒュンと一振り。
行け、との合図。
ヨーコは一瞬辛そうな顔をしたが、撤退ラインに向かって走り出した。
それを目の端で確認しつつ、口の中に溜まった血を吐き出して、再び幻獣に向き直る。
カトラスを構え直した処で、視線がかくん、と下がった。
気が付くと、膝をついていた。最早立てる力も残ってないらしい。
「フン…まあいい」
自然と口元に笑みが浮かんだ。此処からは自分一人の舞台。意識が途切れる迄に、せいぜい多くの屍山血河を築いてやるつもりだ。幻獣に心があるなら、激しく後悔させてやる。
最後の幻獣が去った時、奇跡的に舞にはまだ息があった。血塗れの彼女は、仰向けに倒れたまま、折れたカトラスを握りしめて、見るともなく、白み始めた空を見ていた。
(運命には…抗えぬのか…)
ふと、脳裏に速水や若宮の事が浮かんだ。
彼らも又、こうやって、戦場で命を散らしていった。
今なら若宮の気持ちが判る気がした。
(確かに…これでは…連れていって貰う方がしんどいな…)
死にかけの今、そんな事を思う自分が可笑しかったが、最早笑う力もない。
急速に意識が沈むのが判る。
「貴女まで…私を置いて行くの?!」
遠くから原の悲鳴が聞こえた気がした。
一寸だけ、すまない、と思ったが、それも一瞬だった。