赤い山に降る雪・断章 −遠き地平に日は沈み− 赤い山(アル・アタ)に降る雪・断章−遠き地平に日は沈み− 「卵王子カイルロッドの苦難」(冴木忍)より
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1996-5「雀百迄プレリリース」初出 |
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「やれやれ」
ゲオルディはため息をついて、倒れている少年を見た。 相当に苦労してきたらしく、痩せて目つきの鋭い抜け目のなさそうな面構えをしている。見た目よりもう2、3は幼い筈だ。 「カイルロッド、か…」 先程は笑いにごまかしたが本当は肝がひっくり返るほど仰天していた。 (あの、ヘルマの倅がのう…) 少年から取り上げた護符を見る。忘れもしない、これはヘルマの為にゲオルディ自身が作って手渡した物なのだ。 その時の事を今でもゲオルディは鮮やかに思い出す事が出来た。 −その子を産むことは、お前にとって掛けに等しい。それでも、構わぬのか。 −はい。私は、約束を、必ず、果たします。 彼女の満面の笑みは忘れようと思っても忘れられるものではなかった。 「ヘルマよ…」 遠い、遠い日の、彼の人との約束。彼女にとって、何よりも、大事な約束。 その為に、彼女は持ち得るべきの全ての力を掛けたのだ。 −産まれた子供には、カイルロッド、という名前を付けます。あの人が、付けたがっていた光の覇者の名を。そして、ゲオルディ様、あなた様が何処にいてもわかるように。 (そして今、こうやってわしの元に…) 少年を見やって呟く。 「因縁よの」 恐るべき力を秘めたまま横たわる少年は自分に課せられたさだめをまだ知らずにいる。全てを知った時、彼はどうするだろう。父母を恨むか、それとも。 「恨まれるべきは、わしかもしれんの…」 END. |
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