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3rdマーチ・ED_Replay: 未来への選択


 激しい衝撃と共に、吹き飛ばされた。
 「う…」
 舞の呻きが聞こえる。
 ヘッドセットが外れていて、ひしゃげた外装が眼に入った。
 口の中は鉄の匂いで溢れていた。
 先程から聞こえる耳障りな音が、自分の呼吸だと気付く。
 (…こりゃ、アバラをやられましたか…)
 左手の多目的リングが、接近する「敵」を告げている。
 ヘッドセットを直そうとして、指の一本も動かない事に気付いた。
 力が、入らない。
 朦朧とした意識の中で、最後を覚悟した。

 その時だった。

 「たちなさい。」

 聞こえる筈のない、ののみの「声」が、頭の中に響いた。
 「なっちゃんをたすけるの。ばんぶつのせーれーがどうか、しらない。うんめーがどうだかわかんない。ぶとうがどうとか、きいてないっ。でも、いいんちょは、」
 シンパシーでは聞こえない筈の、息を吸う音までが聞こえる。
 「たちあがるのよ。のぞみがそう決めたから。」
 「それがせかいのせんたくなのよ。のぞみがきめたの」
 「せかいは、よくなるのよ。ぜったいに」
 ひとつひとつ、確かめるように。はっきりと、ののみは口にした。
 大きく息を吸って、力強く、叫ぶ。

 「たちなさい!」

 思わず、苦笑した。
 自分はもう「いいんちょ」で無くなって久しいのに。
 でも、間違いなくこれは、自分への呼びかけだ。
 このまま、楽になる事は、許されない、らしい。
 「…仕方、ありませんね…」
 呟いて、呻きながら全身に力を込める。
 「が…っ」
 血を吐きながら、腕を動かして、ヘッドセットを装着する。

 「たちなさい!」

 ののみの叫びに応えるように、少しずつ、身体が動き始める。
 「…ぐ…」
 歯を食いしばるようにして、ペダルに足を置いた。

 「たちなさい!!」

 再び血を吐いた。目眩がする。完全な同調は難しいかも知れない。
 グリフが眼前に展開する。濁る事のない、鮮やかな、夜空の星。

 士魂号はまだ生きている。

 「…演算、開始」
 絞り出すような、舞の声。
 入ってくる情報。
 −耐久力・1

 「ニャー!」
 ブータの叫びが聞こえた。
 −耐久力・2

 壬生屋が叫ぶ。
 来須の呟きが届く。
 全ての戦友の、祈りと叫びが、ゲージを動かした。

 −耐久力・26

 「…フ…」
 思わず笑みが浮かんだ。
 口中の血塊を吐き捨てて、決然と応える。
 「…行きますよ、舞」


 士魂号は、立ち上がった。


 戦う力は残されていない。
 やるなら一撃だ。
 慎重に、狙いを定めて「敵」を見る。
 向けられた照準。
 全ての祈りを注ぎ込んで、その手に力を込める。
 集まってくる青い光。ヨーコの描いた文様が浮かび上がる。
 生身の手と連動するように、凄まじいまでに輝き出す、士魂号の拳。
 これが、最後の幻獣を、許す力。

 思わず、自分のものとは思えない、咆吼が上がった。

 精霊手、炸裂。

 その光が、「敵」を取り巻く。
 盛大な爆発と共にその姿が霧消する。

 渦を巻く様にして空に昇る青い光。
 その中心の地面に、ひとり取り残されるように、狩谷がいた。
 無傷なまま。
 突然我に返ったように、昇る光を見回す。
 その呆然としたような素振りに、安堵する。
 「…やったな」
 舞の声が聞こえた。
 「ええ…有り難う」
 やっと、それだけを言った。

 力が抜けるように、士魂号が崩折れた。

 士魂号のコクピットが外から開かれて、無理矢理ヘッドセットが剥がされた。
 射し込む光に目を細める。
 「生きてまーす!」
 「びょ、病院だ、病院!」
 「止血します」
 ののみが寄ってきた。
 「…だいじょうぶなのよ。これからはいいことしかおこらないの。ねー」
 にっこり笑った。
 「ニャー!」
 ブータが頷く様に応える。
 軽く、息を吐いた。
 (…やれやれ、どんな兵器より、小さな子の怒った声ですね)
 声になるかならぬかの呼気で、呟く。
 「それが、正しい世界ってもんでしょう」
 耳ざとく聞き取ったらしい若宮が、それに応えた。
 「それを知ったら、みんな馬鹿らしくて、戦争をやめるんじゃないですかね」
 一瞬、若宮を見る。彼は軽く、ウィンクして見せた。
 「…違いない」
 目を閉じ、笑って、親指を立てた拳を、ゆっくりと空につきだした。
 みんなに応えるように。


《Happy_End.》

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