虜囚
「鋼の錬金術師(アニメ版)」より
2002-05-25 公開


 此処にもう、何日、居るのだろう。
 窓一つ無い、薄暗い、部屋。




 ただ、赤い。




 刑が執行される代わりに連れて来られた、部屋。
 「貴様を殺しはしない」と言ったのは、誰だったか。
 ただ、此処で、研究を続けろ、と言われた。
 自分に否やは無いから、言われた通りに、した。



 あれから何日が過ぎたのだろう。



 初めは、
 時折浮かぶ、金色の目の天才の面影に、激しい羨望と、
 嫉妬を抱きながら。


 煮えくり返る様な炎を身内に焦がす様に、生贄を消費する。
 怯える肉どもをすりつぶし、叩き壊して、創造を試みては、
 これだけの命を使ってさえ、魂の欠片すら繋がない、
 己が力に歯噛みする。


 合成するだけなら、幾らだって出来るのに。



 「じゃあ、知って居るモノから、造ってみればイイ」



 あの金髪をどうやら忘れた頃に、思いついた事。
 どうせなら、他人より、近しい生き物を。


 何て言ったっけ?ほら、僕の…


 あの子の成分なら、よく、知っている。
 僕の体細胞からだって起こせる。
 今度はあの、赤い力があるから大丈夫。



 又、沢山の命をすり潰した。
 それと引き換えに生まれてくるものには、何かが欠けていた。
 あの子達は硝子の中から出る事も出来ず、
 時折思い出した様に、


 うっすらと、笑むだけ。



 「さあ、僕だよ。君の生みの親だ」



 無表情な、キメラ達。
 何が足りないのだろう。
 命に挑むのは、無謀なのか。
 無から有を造るのは、犯してはならないものなのか。
 自分は只、見た事がないものを、見てみたいだけなのに。



 天才でも、ヒト一人喪ってなお、生み出せない現実。
 思い知ったのは、自分がリバウンドした瞬間。



 反転した視界。
 反転した現実。
 反転した、心。



 そしてなお、それに執着する、自分。



 声が枯れる程に笑ってから、
 唐突に、あの金色を、思い出す。



 足りないモノは、補えば、いい。
 すべからく、この世は「等価交換」だ。



 この、赤い、部屋で。


−Contiuous End?−



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