浸潤
浸潤
「高機動幻想ガンパレード・マーチ」(アルファ・システム)より 
2003-06-24 初版 希望者のみ配布
2003-06-25 第二版 公開

 そこに倒れていた少女に、気を取られなければ、こんな事にはならなかった。
 今、大事にしている少女にも、古のかの人にも、追いかけて来る鬱陶しい娘にも、
 その抜け殻は余りにもそっくりだったのだ。


 長い髪を広げた、仰向けの、死体。


 こんな深夜に何故、と思う間もなく奴らに取り囲まれ、絡め取られた。
 力を込めようとした、その腕から、痺れが走る。


 (多目的、結晶、か!)

 その神経の集積地に、何かを仕込まれた。
 痺れは一瞬で、後は緩慢な、ざわとした波が全身を包む。


 それとともに、「彼」の意思で動く個所は、何処にも無くなった。


 「くっ…!」


 「彼」が侵した組織を、更にその低域で浸潤する、何か。
 新鮮な死体は、「彼」の支配下から、切り離された。
 それでも「彼」の弄った部分はそのままだから、かの娘のリボンで結んだ
 赤く長い髪も、人ならぬ色と形を為す瞳も、変わりはしない。



 否。



 切り離されたのは、部分だけ、だった。
 「う…!」
 多目的結晶に伝わる、ぞくとした感触は、明確に「彼」を捉える。
 ぬめぬめとした触手が、まるで「彼」を癒す様に、ゆっくりとその身体に絡みつき、
 その先が舞踏服の中に入り込んで、ずるずると奥を這いまわった。



 さながら、仲間を慰撫する様に。



 「くぁ…っ」
 肌を変化させないその汁が、とろとろと、溶けない筈の舞踏服とリボンを
 とろかして行く。
 髪を止めていたリボンが消えて、ふわと赤い髪が広がった。
 ぬるり、とした粘液が、露になったその肌に、ねっとりと後を残す。
 その感触の気持ち悪さに、眉根を寄せた時だった。


 這いまわる触手の先が、幾重にも割れた。


 割れた先が、「彼」の下腹部をぞろり、と這い、それを包み込む。
 ぞくり、とした感触が、一気に脳天にまで突き抜けた。
 「う…ぁぉっ?」
 ぬらぬらとした触手の一つが、頭を撫でるかの如くに這いまわり、
 髪を濡らしてその口腔を埋める。
 「んむ…ぅ」
 染みだしたものが、涎と混じって、その顎を伝った。


 「彼」の意識野に、ぼんやりとしたシルエットが浮かぶ。


 静かな歌声と、優しげな眼差し。
 ほっそりとした、柔らかな手が、伸びる。



 その「身体」の、下腹部に−



 「…っふぅ…っっ!!」
 「彼」は首を振った。
 汚すな。あの人を。



 だが、「彼」の意志に反して、身体は動く事も無く、そのシルエットは
 「身体」を余す処無く愛撫する。
 前を。後ろを。唇を。


 (やめろ、やめてくれ!)


 有り得ない、好色そうな笑みが哀しくて。
 それなのに、全身は強烈な歓喜に包まれて。
 引き裂かれそうな心に、「彼」は泣いて哀願した。


 いやだ。
 助けて。
 こんなにツライのに、
 気が狂いそうな程、



 気持ち良いなんて。



 いっそ美しい程に透明な触手が蠢いて、「彼」の身体を背後から貫いた。



 焦点の合わない紅い眼から、す…と涙が又、こぼれて落ちた。



−END.−



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