棘
「ガンパレード・マーチ −新たなる行軍歌−」より 
2003-04-24 公開



 初めてあいつを見た時思った事は。


 なんて古臭い格好なんだろう、


 って事だった。


 だが、その古風さも悪くない。
 三歩下がって三つ指ついて、おかえりなさいませ、なんて言われるのも、
 男のロマンだよな、なんて。


 例え妄想が若干おっさんくさくても、それを補って余りある程に、
 あいつは綺麗だったんだ。


 まあ、善戦虚しく一発でフラレたけど。
 (本当は、誘いの一言が終わる前に、教本の一撃を食らって御仕舞だった、なんて事はみんなに内緒だ。)



 だから、まさかあいつが、
 今際の際に、


 あんな事をいうなんて、


 思っても見なかったんだ。



 お互いの意識から、綺麗に消えていたと、
 思ってたんだよ、俺は。


 それなのに。


 あいつは、あんなに綺麗な眼をして、
 俺だけを写して、
 俺だけに。



 …



 言い逃げなんて、ずるいじゃないか。
 言うだけ言って、はいさようならなんて。
 らしいといえばらしいけど、



 これじゃ、残された方は、凄く間抜けだと思わないか?



 第一、俺はまだ、応えてないんだぞ?
 返事のひとつもさせてくれよ。
 少しは俺にも、良い目を見させてくれたって、
 罰はあたらないと思うんだけどな。
 今迄俺を騙していた、罰にさ。


 ホント、ずるいじゃないか。
 俺はまだ、生きていかなくちゃいけないってのに、
 好きな女を追う事も許してもらえない。
 その済んだ青に俺を囚えて、
 その鮮やかな血と、肌と、その言霊で、
 全てを縛るなんて、あんまりだ。



 忘れられないじゃないか。



 どんなに想ったって、還ってなんか来やしない、くせに。
 どんなに焦がれたって、微笑ってなんか、くれないくせに。


 それでもなお、自分のものにしたいなんて。


 あいつは充たされても、
 俺が、俺の望みが、充たされる事は無いのに。
 どんなに望んだって、
 世の理が、覆ったって、あり得ない、のに。


 ずるいよ。


 違うって言うなら、帰ってこいよ。
 俺は、お前を忘れて、他の女を追いかけてるからさ。
 いつもの様に、俺を叱りに、戻ってこいよ。



 …未央。



−END.−



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