3.絶望、そして (承前)
… …… ……… シャリー…ン バラララ………ンンン… トーーーー…ォォォォン……! この世のものとは思えない、妙なる調べが耳朶を打った。 数多の生き物と、そうでない異形達が、その音を奏で、歌う。 赤や碧や白の、鮮やかな光達が舞う、その中で、 一際美しく舞う、青。
その歌を、自分は知っている。 だが今、喉からは、一片の音も出る事はなかった。 代わりにその頬を、涙が伝う。 こんなにも、貴方を、渇えているのに、この手は、貴方に、届かない… ただ、手を伸ばした。
シャラ…ンンンン…
美しき鈴の音が、何かと、共鳴し、その青き光が、全身を取り巻いた。 「!」
善行は、目を覚ました。 ゆっくりと、起きあがる。
顔を拭うと、先ずは全身を確かめた。 (フル・クローニング、か…) 記憶を弄られたのかと、辿ってみる。若宮との死闘から、幻獣に引き裂かれて殺されるまでの生々しい記憶まで、しっかり残っているのを確認した。消されたかと思ったあの「男」との記憶も、全て、残っていた。反社会的な事も無理なく考えられるから、特に矯正されている様にも感じられない。弄られていないとしたら、脳細胞の死自体に間に合う筈もないあの状況で、これ程綺麗に記憶が移植できるものなのか− (まあ、思い悩んだ処で判る筈もないか) 実際に弄られていたら、考えた処で自分には知る術がない。意味の無い事で悩んでいても仕方が無いな、と善行は腹を括った。そして、それが「介入」と言うことかも知れない、と漠然と思った。 だが何か、大事なものが思い出せないような、そんな、飢餓感がある。 例えば、直前に見た夢、とか。 善行が、頭を抱えた時だった。 「失礼します」 ノックがして、扉が開いた。 「…戦士!」
そこには、若宮が、立っていた。
若宮は笑顔を向けた。 これは改竄された記憶を移植されている、入れ物だ。
善行は醜悪な嫌悪感に一瞬、身震いした。
「ええ、わかりました。有り難う、戦士」
思い出そうとした、美しい記憶を閉じこめる。 なら、こんな醜悪さは、僕に似合いだ。
眼鏡が欲しいと思いながら、口を開く。 改めて、善行は、笑ってみせた。 「そうですね。貴方も元気そうで、何よりです」 - Continuous End.- |