点景  −「訣別」より−
点景 −「訣別」より−
「高機動幻想ガンパレード・マーチ」(アルファ・システム)より 
2004-12-13 公開



 天幕の隙間から、星が、見えた。


 「…」


 ではまだ、自分は、生きているのだ。
 ぼんやりと、若宮は思った。


 「気が付きましたか」


 柔らかい、穏やかな声音がすぐ近くに聞こえて、正気に返る。


 「あ、動かないで下さい。私は此処に居ない事になってるので」


 くすくすと小さな笑い声がして。


 「安心しましたよ。今日目覚めてくれなかったら、貴方の処分をくい止められなかった」


 声の主を見たくて、何とか目玉だけでも動かしたが、視界内には何処にも居ない。


 「これで、怒られずに、済みます」



 その時、天幕の隙間を、星が、流れた。



 「…ああ、今日は極大日だったか…」


 ぽつり、と呟きが、聞こえた。


 「そういえば昔、口説くのに、流れ星を利用した事がありましてね」


 何処か懐かし気な、声。


 「学生時代に詳しいのがいたんですよ…彼からの受け売りだったんですけど」


 悪戯っぽい、楽しそうな響き。


 「流星群で流れ星が一番数多く降る日を極大日と−極めて大きい日、と書くのだと、
 教えてやったんです」


 一寸だけ、嬉しそうに。


 「さしてロマンチックでも無い話だったんですけどね…不思議な位、効果があって、
 随分尊敬して貰えましたよ」



 又、星が流れた。



 「…失敬。つまらない話でしたね。貴方には、もう少し正気で居て貰わないと困るのに、
 無駄な時間を取らせました」


 すぐ近くで、何かが動く気配が、した。


 「間もなく戦局が、動きます。体力を付けて、なるべく早く戦線復帰する様に」


 若宮は身じろぎした。
 何とか声の主の姿を、見たい。



 「でないと、貴方を彼女に、返せない」



 ようやっと、ほんの少しだけ起こせた首で見えたのは、
 懐かしい、痩躯のシルエット。
 その、闇に迷い無く進む、律動的な歩みすら、記憶のままに、変わり無く。



 「こっそりナースコールしておきますから、起きてて下さいよ?」



 言葉通りに衛生兵と軍医が駆け込んでくるまで、
 若宮は、その残像を、星降る中に、追い掛けていた。



−Fin.−



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