Cacao_Delusion
Cacao_Delusion
「高機動幻想ガンパレード・マーチ」(アルファ・システム)より 
2004-02-14 公開



1.甘過ぎるBITTER



 素子は婉然と微笑んだ。


 「折角だから、特別製をア・ゲ・ル☆」


 いつもより少し濃いめの赤が、唇で濡れている。
 箱からゆっくりと取り出された、一欠片のチョコレート。


 「本物の砂糖を使った、高級品よ。よぉく、味わってね?」


 チョコを摘んだ、形の良い指がす、と近付いた。
 食べさせてくれるのか、と照れながら口を開くと、急にそれが離れる。
 不思議そうに見ると、素子はふふ、と笑った。


 「駄ぁ目。このままじゃ、つまらないでしょ?」


 言うなり、ちゅぷ、とチョコレートを銜える。
 口元が、淫らかに、笑む。
 チョコレートが素子の口の中に収まるのが見えた。
 意地汚く抗議しようとした瞬間、その腕が首にまきついてきて、
 そのまま口付けされた。


 「!」


 絡みついて来た舌ごとチョコレートが口の中に押し込まれる。
 その、濃厚な、香りと甘さが広がった。
 ゆっくりと、味わう様に舌を絡ませて、素子の唇を吸う。


 「んふ…」


 まきついた腕には力がこもり、次第に熱い息が漏れる。
 チョコレートが溶けきった処で、素子はようやく唇を離した。


 「特製・素子スペシャル…☆」


 その眼差しが艶っぽい色を漂わせている。


 「どう…?私の、味は」


 ちろり、と舌先が、己の唇についたチョコを、舐める。



 それが誘いの、合図。



 言葉の代わりに彼女を抱き寄せた。




2.ほろ苦いSWEET



 俯きながら、萌は言った。


 「好きに…して…いい…の」


 少し潤んだ瞳は、泳ぐ様に地面を見つめている。
 両の腕で頑なに隠した胸元や、頬に少しだけ浮いた、紅。


 それだけで愛おしくなって、震える身体をそっと、抱き寄せる。


 「!」


 優しい口付けを軽く交わした後で、貰ったばかりの包みを開く。
 人肌で溶けるというそれは、室温でも充分柔らかい。


 貴女に、プレゼントを。


 そう囁いて、胸にある彼女の手をどかした。


 「…ぁ!」


 呑み込む様な声とも息ともつかぬものが、彼女の喉を鳴らす。
 露わになる、やや赤味がかった、傷痕。


 彼女の目に、怯えの色が走る。


 今自分が出来得る、精一杯の優しい顔を向けてから、その痕に口付けた。


 「…っ!」


 目を閉じ、びく、と仰け反る彼女に構わず、繰り返し口付ける。
 いとしむ様に、何回も。


 そして、
 充分に溶けたチョコレートを、



 塗りつけた。



 「…!」


 そのまま舌を傷痕に添って、這わせていく。


 「…!…!…!!」


 薄く、白い胸乳の谷間に広がる、甘い香り。
 溶けたチョコレートが彼女の傷を覆い隠す。



 つかの間だけでも、戯れに。




3.濃密なMilk_White



 そのキスは、チョコレートの味がした。
 身体中に残る跡からも、甘い香りが立ち上る。


 彼女を流れ落ちる白いそれは、自分のものかそれ以外かも最早、判らない。


 チョコレートは口にするもので、遊ぶモノではないだろう。
 まして、甘味は貴重なこの時期に。


 …別に、『口』に、食わせていない訳では、ないが。


 美味しかったか、と目顔に問われて、答え代わりにキスを、返す。
 唇が離れる瞬間の吐息すらも、甘やかに、薫る。


 なまめかしさを湛えた眼差しが、こちらを見つめる。
 ゆるゆると蠢く腿の内側に、幾筋もの、跡。
 顎を伝う、粘性の、白。



 身内の燻りが力を得て、新たな熱に変わっていく。



 それは、限りなく甘い、交合。



−Fin.−



[あとがき]
[HOME] [Novel Index] [PageTop]