陰謀の小隊
陰謀の小隊
「高機動幻想ガンパレード・マーチ」(アルファ・システム)より 
2003-07-01 公開

 「えっと…し、出席を取ります」
 「芳野先生」
 春香はぎくりとして動きを止めた。
 そして、おずおずと、声の主を見る。


 「な、何?善行君」


 「無駄な事は止めて下さい」
 剣呑な声音に春香はびくりとした。
 「え、でも…」
 「毎朝毎朝同じ事を言わせる気ですか?」
 眼鏡が朝の光にきらりと光る。


 がらん、とした教室に、座っているのは善行だけ。


 「良いから授業を始めて下さい」



 事の起こりは二月程も前の事だった。
 着任早々善行は司令を解任され、スカウトに異動させられた。
 誰かの陰謀だったらしい事は判ったが、善行にとって予定外だったのが問題だったのだ。
 ひよっこばかりだった戦車兵チームの陣容をやっとの思いで整え、これで覚醒者を養成出来ると思った矢先なのである。何れは関東に戻るかもしれないと思いつつ練っていた計画ではあったが、まだ何も滑りだしていない段階でいきなりの左遷であった。


 そう、左遷以外の何だと言うのだ。


 即座に司令に戻ろうとしたが、何人もの邪魔が入って自分の提案は上層部に伝わらない。そんな攻防を1ヶ月も繰り返してる内に次第に腹が立ってきた。そんな提案を聞く上層も上層だし、自分達が使えると思ってるらしい陰謀者共にも頭に来る。



 そこまで思った時、ついに善行は深く静かにブチ切れた。



 「では、君達の思惑を塗り替えてやろうじゃありませんか」


 堅く決意すると、後は迅速かつ周到だった。
 目標をとりあえず絢爛舞踏に定めると、人知れず徹底的に訓練とドーピングを施して能力強化する一方で、装備の充実を図る。陸戦自体は未経験ではないから、戦い方には困らない。
 折角手前で整えた陣容だってのに、戦車兵は片っ端から追い出した。特に複座型は撃墜数を稼がれてしまうので、念入りに外す。パイロット異動と自分の司令返り咲きとどっちが面倒な闘争かなんて事はこの際問題では無かった。



 そして、二組に無職が溢れる頃、単独撃墜数は250を突破していた。



 後少しで絢爛舞踏が射程に入る頃、支援攻撃が邪魔になった。その頃には怪我なんてする事も無くなってたので、衛生官を外していた。ついで事務屋とオペレータを外す。


 「面倒ですね」


 最後に司令を追いだして、一丁上がり。
 自分が「司令」となって出撃し、指揮車から降車して幻獣を撃墜する。命令は全て自分に直接やってくるから間に何か入る必要もなし。その上スカウトだから整備は不要。あれだけ苦労して揃えた士魂号もハンガーで蜘蛛の巣だし、二組からたまに聞こえる「委員長横暴」の怨嗟も何処吹く風。



 善行の気持ちは只一つ。
 お前らが悪い。



 「ええ…っと、じゃあ、此処は、誰にやってもらおうかなあ…」
 「芳野先生」
 「え、あ、何?善行君」
 「だから、そういうのは止めてください。時間の無駄です」
 「う…で、でも」

 「何なら私も、さぼったって良いんですよ?」



 絢爛舞踏まで後2匹。
 有名無実の授業はまだ続く。



- Continuous End.-



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