幻獣共生派の中でも過激派として最近名高い一派から、小さな小箱が届いたのが、3日前になる。それは丁度、小隊長にして司令の善行が行方不明になってから7日後のことだった。
小箱の中には、陳腐な脅迫文と、赤黒い血に染まった脱脂綿の塊が入っていた。
その中に、ちいさな指先が入っていた。


芝村を中心とした軍部の秘密裏に行われた作戦の結果、過激派は誰に知られる事もなく、この世から抹消された。
10日ぶりの、帰宅だった。


喪った中指の断端からは、未だにじくじくと血が滲み出してくる。
「切れたらすぐ、氷にでも漬けて病院に行けばいい、って学校では教わりましたけどね。
こうなってしまっては仕方ありません。貴方が気にすることじゃない」
衛生官に包帯を巻いてもらいながら、善行は独り言のように呟いた。
かける言葉を探しあぐねている相手への、せめてもの気遣いだった。
「それにしても、彼らもなかなか賢くてね。利き腕の中指の大切さを、改めて思い知らされましたよ。
彼らの銃を奪う機会があったんですけどね。ちっとも狙いがつけられやしない」
おどけた表情で、銃を構えるような素振りをするが、包帯に包まれた中指だけが、所在なげにひくひくと揺れる。
改めて包帯に滲んできた血を見て、衛生官の眉が曇る。
「しばらく退役でもしたい処ですが、そうもいかないご時世でしょう。
銃が使えず、ペンもスパナも持てないのなら、せめて刀の使い方でも、教わっておきましょうか」
壬生屋さんにでも、と言いかけた処で、右手を掴まれた。
包帯に包まれた右手を、両の掌が包み込むように重ねられる。
決して強くなく、しかしぎゅうっと込められた力が、包帯の奥にズキン、と響く痛みを呼び起こす。


忘れていた筈なのに。
否、忘れようとしていた筈なのに。
喪ったものを、痛みと共に。
語られない言葉が、どんな思いよりも強く、中指に、響く。
それが、痛い。





中指プチ絵に捧げます。
書いてから若O子さん事件とか有ったよなぁと思い出したり(不謹慎)
(2004/01/26 yukiru / dedicated to S.Itano)

同志ゆきる様から、プチ絵(迷宮格納済)に頂いたもの。
考えて頂いて有り難うございます。
多分ウチの馬鹿だと判ってて捕まって
予想外でドジったと言う処でしょう(笑)
BY. S_Ita.


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